140国会 本会議会議録 1997年05月14日
○山下栄一君 私は、ただいま議題となりました環境影響評価法案、いわゆる環境アセスメント法案につきまして、平成会を代表して、総理並びに関係大臣に質問いたします。
環境アセスメントの法制化は、深刻な公害に苦しみ、自然破壊を経験してきた国民大多数の長年の願いであります。我が国で最初にアセスの法案を国会に提出した政党は、当時の公明党でありました。昭和五十年、今から二十二年前のことであります。しかし、その後、今日に至るまでアセスの法制化は実現せず、我が国はOECD加盟二十九カ国中、唯一アセス法を持たない国になってしまいました。
この現実を総理はどのように反省しておられるか、まずお尋ねしたいと思います。
さて、今回、政府が提出しましたアセス法案は、昭和五十九年に定められたいわゆる閣議アセスをベースにして、これに見直しを加えて法案化したものと理解しております。確かに、現行制度に比べ改善された点はありますが、問題点の多い閣議アセスの延長線上にとどまっていることは否めず、また、そうであるからこそ、これまで法制化に反対してきた事業官庁も容認したと思われますが、本法案はなお不十分なものであるとの立場から質問するものであります。
法案の内容に入る前に、環境行政に対する総理の基本姿勢について伺いたいと思います。
橋本内閣が標榜する六つの改革の中核が行政改革であり、なかんずく省庁の再編問題が大きな注目を集めておりますが、現在行われている行革論議では環境の視点がほとんど見受けられず、環境重視の世界の潮流に逆行するものです。
私は、二十一世紀を見据えた環境保全型・資源循環型経済社会の構築は、環境行政の一元化を含め環境庁の権限強化を軸に行うべきであり、環境庁を調整型から監査型へ脱皮させるべきだと考えますが、総理の所見をお伺いします。
翻って、この法案を見た場合、環境庁長官が主体的に関与する場面としては、基本的事項の策定と環境影響評価書に対する意見提出の二カ所だけであります。この法案は、環境庁が主管するものでありながら、事業官庁が前面に出て環境庁の影が薄いという構図になっており、これでは従来の制度と全く変わりありません。環境庁が他省庁に対し強く物を申せるようにするために、法案の総則の中に環境庁及び環境庁長官の役割を前面に出す規定を設けるべきであると考えますが、総理、いかがですか。
さて、ことしは、六月に国連環境特別総会、十二月に地球温暖化防止京都会議、さらに先日、アメリカで橋本総理みずから提案された来年初頭のNGOや途上国の代表を集めての東京会議など、これから一年の間に環境問題に関する国際会議が続きます。これらの会議でリーダーシップをとるべき日本の総理として、今回の法案は世界に誇れるアセス法であるとお考えですか、所見をお伺いします。
続いて、法案の内容について質問いたします。
ことし二月の中央環境審議会の答申で示された現行制度の見直しポイントの第一は、早い段階での環境配慮であります。
早い段階からの環境配慮というのであれば、上位計画や政策の段階でのアセス、いわゆる戦略的環境アセスメントの導入が必要であります。主要諸国において既に取り組みが始まっているこの戦略的環境アセスについての規定を設けておくべきではないか。環境庁長官の見解をお伺いしたい。
そして、戦略的環境アセスメントの導入に向け、今後、国が開発にかかわる計画、例えば公共事業計画や政策等を策定するに当たっては、環境影響について評価し公表することを可能なものから実践していくことを提案したいと思いますが、これに対する総理の見解をお伺いします。
現行制度の見直しポイントの第二は、対象事業の拡大であります。
先月、厚生省は全国のごみ焼却施設に関するダイオキシン排出濃度の調査結果を初めて公表しました。それによると、七十二施設の濃度は厚生省が決めた極めて甘い緊急対策値すら超え、また、全体的な濃度レベルも恒久対策目標値にはほど遠い実態にあることが明らかとなりました。
このように、ごみ焼却施設などの廃棄物処理施設は重大な環境汚染を引き起こすおそれがある事業であるにもかかわらず、なぜ最終処分場以外の施設も対象事業としなかったのか、環境庁長官にお伺いしたいと思います。
関連して、この機会にダイオキシン対策についてお伺いしたいと思います。
今月上旬、アメリカのマイアミで先進七カ国とロシアが参加して開催された八カ国環境大臣会合において、環境汚染の被害を最も受けやすい乳幼児を基準に各国の環境規制を強化することで合意したと聞いております。
そこで、この合意を受けてダイオキシンに関する基準の見直しを行う必要はないのか、環境庁長官と厚生大臣にそれぞれお伺いします。
国の法的規制への対応のおくれにより、埼玉県所沢市ではことし三月、全国で初めてダイオキシンに関する規制条例を制定しました。環境庁は今月になってようやく重い腰を上げ法的規制の方針を打ち出しましたが、大気汚染防止法の指定物質の枠組みによるもので、これには罰則がないため実効性の面で問題があります。
こうしたダイオキシン対策の現状について、総理はどのように認識しておられるか。また、ダイオキシン対策については、関係省庁が一体となって取り組み、早急に人体汚染の緊急実態調査を行うとともに、罰則を伴う法的規制措置を講ずるべきであると考えますが、総理並びに厚生大臣、環境庁長官の決意をお伺いします。
さて、対象事業にかかわる問題に戻りますが、法案ではアセスを行うかどうかを国の行政機関が個別に判定する、いわゆるスクリーニング手続を導入しました。
ところが、この重要な手続において意見を述べることができるのは都道府県知事だけで、市町村長と住民にはその機会が設けられておりません。徳島県木頭村の細河内ダム建設問題などで見られるように、知事と市町村長の対応が異なることはよくありますし、そして、何よりも広範な人々から意見を聞くことこそ、アセス制度における重要な原則であるはずです。したがって、このスクリーニング手続についても、市町村長と住民の意見提出の機会を設けることを求めたいと思いますが、環境庁長官の見解をお伺いします。
現行制度の見直しポイントの第三は、評価のあり方の見直しであります。
中環審答申では、複数案の比較検討ができる手法の導入が適当としています。ところが、法案ではその点が不明確です。一九六九年に世界で最初に環境アセスを法制度化したアメリカにおいては、代替案の検討は環境影響評価書の核心であると位置づけられているのであります。本法案でも、必ず複数案が記載されるようにすべきであると考えますが、環境庁長官の見解をお伺いしたい。
現行制度の見直しポイントの第四は、アセス後のフォローアップ措置の導入であります。
フォローアップ措置としてモニタリングを行った結果、アセスの予測値と実測値が大きく食い違うことが判明したような場合には、当然事業を中断させ、アセスメントを再実施させるようにすべきであると考えますが、法案ではこれに関する規定が見当たりません。これは一体どうしたことでしょう。環境庁長官にお伺いします。
次に、発電所アセスの問題について伺います。
いろいろ議論を呼んだ発電所アセスについては、形式的にはアセス法の対象となりましたが、実質的には電気事業法の改正によって別枠扱いとされてしまいました。
通産省は、発電所アセス別枠化の理由として、アセスの結果の工事計画の認可要件化などアセスメント手続の厳格化を挙げておりますが、このことは、言いかえれば、アセス法案の方はそれほど厳格じゃないということになります。もしそうであるならば、アセス法案も電気事業法並みに厳格化すべきであります。そうすれば、中環審答申で留意事項とされた「統一的で、透明性が保たれ、わかりやすい制度」とすることも実現できるのではないでしょうか。総理並びに通産大臣の見解をお伺いします。
次に、法案と地方自治体のアセス制度の関係について伺います。
地方自治体においては、第三者機関である審査会による審査や公聴会の開催など、今回の法案にはないすぐれた手続を有しているところもあります。
現在、都道府県、政令市においては、ほとんどの団体で条例等によりアセス制度が整備されておりますが、その背景の一つに、長い間、国が法律という形できちんとアセス制度を確立してこなかったことがあると考えます。後から法律をつくって、地方の制度はこれに合わせろというのは、地方分権の時代において問題であります。
また、法案の規定は抽象的なため、具体的にどの地方のどの手続が法律に抵触するのか判然としないという問題もあることから、この際、この規定を改め、地方自治体独自の手続も認められる旨を明確にすべきであると考えます。総理及び環境庁長官の見解をお伺いします。
振り返ってみますと、昭和五十九年に定められた閣議アセスは、今回の法案提出までの約十三年間、一度も見直されることはありませんでした。この間にも先進諸国のアセス制度は、戦略的環境アセスの導入など、どんどん進歩を遂げてきており、その結果、我が国のアセス制度は、法制面だけでなく、内容面においても各国に大きなおくれをとることになりました。
こうしたことからも、この立法時に修正すべき点は思い切って修正して、現時点で世界最高水準の内容で制度をスタートさせた上で、常に内外の動向も踏まえつつ適宜適切に制度の改善を図っていくという姿勢が大事であります。
この点について最後に総理の見解をお伺いし、私の質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣橋本龍太郎君登壇、拍手〕
○国務大臣(橋本龍太郎君) 山下議員にお答えを申し上げます。
まず、OECD加盟国中、唯一アセスメント法を持たないことについてのお尋ねがございました。
政府といたしましては、昭和五十六年に法案を提出いたし、それが廃案になりまして以降、これまで行政指導による実績を積み重ねてまいりました。今回の法案は、そうした実績を踏まえて作成したものでありまして、着実に環境影響評価制度を推進してきた成果として御理解をいただけるものと思っております。
次に、環境行政への基本姿勢についてのお尋ねがございました。
環境への負荷の少ない循環型経済社会システムの構築に向けて、今後とも総合的、効果的な環境政策の推進に努めてまいりますが、中央省庁のあり方につきましては、現在、行政改革会議におきましてさまざまな角度からの検討を行っている最中であります。
次に、環境庁及び環境庁長官の役割について御質問をいただきました。
環境庁長官は、環境行政を総合的に推進する立場から、基本的事項を策定し、環境影響評価書について必要に応じて意見を述べるものでありまして、このような役割を適切に果たしていただくことで十分実効ある環境アセスメントが行われるものと考えております。
次に、世界に誇ることができる法案であるかというお尋ねがございました。
本法案は、欧米等諸外国の環境影響評価制度の実施状況等を十分調査した上で立案に当たったところであります。スクリーニングやスコーピング手続を盛り込むなど、諸外国と比較しても遜色のないものであると考えております。
次に、戦略的アセスメントについての御意見をいただきました。
政府の計画について、あるいは政策につきまして環境配慮を行うべきことは、環境基本法に規定されているところでありまして、今後、中央環境審議会の答申に従い、国際的動向や我が国での現状を踏まえ、政府の計画や政策についてのアセスメントの手続のあり方について検討を進めてまいります。
次に、ダイオキシン対策についての御指摘をいただきました。
この問題は、国民の健康影響を未然に防止するという観点から極めて大事な問題だと認識しており、人への汚染の状況につきましては、現在、関係省庁が連携しながら調査方法の検討を進めております。
また、排出抑制策につきましては、現在、関係審議会において検討がなされておりますことから、今後これを踏まえて具体的な措置を早期に講じていきたいと考えております。
次に、アセスメント法案を電気事業法並みに厳格化すべきという御意見をいただきましたが、発電所につきましては、通産省の省議アセス制度による過去二十年間の実績、民間事業者の個別事業が電力の安定供給という国の施策と強いかかわりを持つという特殊性から、アセス法の手続に加えて手続の各段階で国が関与する特例を電気事業法に設けたものであります。これは、電気事業という事業の特性に即して対応したものでありまして、中央環境審議会の御答申にも沿ったものと考えております。
次に、自治体との関係につきましては、本法案におきまして条例との関係について第六十条に規定をいたしまして、地方公共団体がその意見形成に当たり御指摘のような第三者機関による審査や公聴会の開催などを独自に条例で定められる仕組みとしておりまして、その旨を周知徹底させてまいりたいと考えております。
最後に、法案の修正及び将来の改善についてのお尋ねをいただきました。
本法案は現時点において最善のものと考えておりますが、法施行後、制度の運用状況を真摯に点検しながら、必要に応じて制度の改善についても検討してまいりたいと考えております。
残余の質問につきましては、関係大臣から御答弁を申し上げます。(拍手)
〔国務大臣石井道子君登壇、拍手〕
○国務大臣(石井道子君) 山下議員にお答え申し上げます。
戦略的アセスメントについてのお尋ねでございますが、中央環境審議会の答申においても、なお検討を要する事項が多いことなどの点から今後の課題とされていることでございまして、総理の御答弁にもありましたように、今後、具体的に検討を進めてまいる所存でございます。
廃棄物処理施設についてのお尋ねでございますが、最終処分場以外の廃棄物処理施設につきましては、他の対象事業に比べて一般的に敷地面積が小さく、大気汚染につながる排ガスの発生量等から見た規模も大幅に小さいことなどから、対象事業とすることは考えていないところでございます。
ダイオキシン基準の見直しのお尋ねでございますが、ダイオキシンの健康リスク評価指針値につきましては、環境庁の検討会により、発がん性にとどまらず発達影響や生殖影響など乳児や小児への影響をも考慮して、体重一キログラム当たり一日当たり五ピコグラムとされたものでありまして、今回の合意により直ちに変更の必要はないと考えているところでございます。
ダイオキシン対策につきましては、先ほど総理が御答弁されたとおりでございまして、私どもも早期に対策を講じてまいりたいと思っております。
スクリーニング手続における市町村長、住民の意見についてのお尋ねでございますが、スクリーニングについては、客観的な基準を定めることにより相当程度類型化して判断することが可能であるために、都道府県知事が有する地域の基本的な情報により判定は十分適正になされるものと考えております。
複数案の記載についてのお尋ねでございますが、本法案では、中央環境審議会答申を踏まえ、準備書及び評価書に環境の保全のための措置を講ずることとするに至った検討の状況の記載を義務づけております。事業者において複数案の比較検討が行われた場合には、その検討の状況が適切に記載されることとなると考えております。
予測値と実測値が食い違った場合にアセスを再実施させるべきであるとの御指摘でございます。
アセスは事業着手前の手続でありまして、既に着工済みの事業についてアセスを再実施させることは制度の趣旨になじみがたいものと考えております。
なお、予測値と実測値の乖離につきましては、手続の中で十分な審査を行うとともに、予測技術の充実に努めることを基本として対応してまいる所存でございます。
自治体との関係についての件につきましては、先ほど総理が御答弁したとおりでございます。(拍手)
〔国務大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕
○国務大臣(小泉純一郎君) 山下議員にお答えいたします。
ダイオキシンの基準の見直しについてですが、今回の八カ国環境大臣会議における合意は新しい視点からの提案であると受けとめておりまして、乳幼児を含めて国民の健康を守るということは最も大事であるという視点から、今後、WHO、OECDなどの国際機関での専門的な検討を踏まえて適切な対処をしていきたいと考えております。
それと、ダイオキシン対策の取り組みについてですが、廃棄物焼却施設から排出されるダイオキシンの削減のための規制措置につきましては、現在、専門的な検討の場において検討しており、その結果を踏まえ、人体における影響、健康を守るという点から、法的規制という点がいろいろありますが、実効性のある法的規制措置を講じてまいりたいと思います。(拍手)
〔国務大臣佐藤信二君登壇、拍手〕
○国務大臣(佐藤信二君) 山下議員にお答えいたします。
私に対する質問は、発電所アセスメントについてでございました。
発電所は過去二十年間、通商産業省の省議アセス制度において、手続の各段階から国が監督指導し、十分な実績を上げてきたところでございます。また、民間事業者の個別事業が電力の安定供給という国の施策と強いかかわりを持つという点で特殊な性格を有するものだと、このように思っております。
こうした観点から、アセス法の手続に加え、発電所に固有の手続を電気事業法に規定することとしたものであります。
これは電気事業の特性に即して対応したところであり、中央環境審議会の答申に沿ったものであると、かように考えております。
以上です。(拍手)