145国会 本会議会議録 1999年06月14日
○山下栄一君 私は、公明党を代表し、ただいま提案されましたいわゆる地方分権一括法案について、総理並びに関係大臣に対し、質問いたします。
平成五年、衆参両院で地方分権の推進に関する決議が採択されてからちょうど六年、本一括法案を私は本格的な行政改革への具体的な第一歩として一応評価するものであります。しかしながら、憲法また地方分権推進法に示された基本理念に照らし、極めて不十分であるとの観点から、以下質問いたします。
地方分権とは、文字どおり国と地方公共団体とで行政における権限を分けることであり、政府の言う役割分担もまた同義であります。平成六年十二月に閣議決定された地方分権の推進に関する大綱方針の中で、その役割について政府は「企画・立案、調整、実施などを一貫して処理していくもの」と定義づけております。しかるに、本一括法案を概観してみると、役割分担のうち単に実施部門だけを地方自治体に移譲した内容に終始しており、地方分権と冠するにふさわしい法案なのかとの疑念を抱かざるを得ません。
そこで、本一括法案の中で、国から地方へ移譲した役割のうち、企画立案、調整まで含めて移譲した権限が一つでもあるのか、そのような例があれば示していただきたいのであります。
さらに、地方自治の基本法たる地方自治法の改正案の中で、自治体の役割を「地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う」と規定しています。ところが、地方分権推進委員会の勧告及び計画では総合的に担うとされていたのに、ここでなぜ「実施」という二文字をあえて挿入されたのか。大綱方針で示した地方が分担すべき役割を実施のみに限定するかの誤解を招くような文言はあえて加えるべきではないと考えますが、政府の方針変更の有無を含め、明確にお答えいただきたいのであります。
次に、地方自治体に対する国の関与についてお伺いいたします。
本一括法案の中で、機関委任事務の廃止に伴い、自治事務と法定受託事務に整理され、それぞれに国の関与の基本類型が規定されています。しかし、従来、国が直接的に権力的関与ができなかった固有事務、団体委任事務を含めた自治事務全般に、例えば各大臣が是正義務を伴うような是正の要求ができるという、国の権力的関与を認めることは政府の大綱方針に反するものであると考えますが、総理の御所見をお伺いいたします。
また、機関委任事務の廃止によって通達行政も当然なくなりますが、しかし、通達にかわって各大臣は法定受託事務について処理基準を定めることが可能となり、法定受託事務と機関委任事務とは実質的に何ら変わりないものとなっているのではないか。この処理基準の法的な性格とはどういうものなのか、違法性や公益性を害するなどの司法判断または国の関与に際しての基準となり得るのか、また、機関委任事務を法定受託事務としたことによる自治体のメリットは何か、あわせて自治大臣より答弁を求めます。
国地方係争処理委員会についても、総理は衆議院における議論の中で、行政機関の肥大化を極力抑制するため国家行政組織法第八条に基づく審議会として総理府に置くと答弁しています。そもそも、この委員会は、国と地方の役割をより明確にし、よって行政の効率性に寄与するものであり、肥大化などとの表現を使うこと自体、甚だ不謹慎であります。準司法機関たるべき委員会を総理府に置く積極的な理由は何か。さらに、自治体が国の関与について裁判所に提訴できるのは委員会の審査を経なければならないとされる一方で、国が代執行を行う際は直接、裁判所に提訴できるのであります。この係争処理の仕組みは明らかに地方自治体にとって一方的に不利であり、対等の関係とはほど遠いものではないでしょうか。総理の御所見をお伺いいたします。
また、政府は、地方分権推進委員会の目玉となるべきだった公共事業の地方移管については完全に見送り、一方で中央省庁再編によって国土交通省という巨大な事業官庁を誕生させようとしています。橋本前総理は、そうした懸念に対して、公共事業については、まず国と地方の分担を徹底して見直すと再三国会で答弁し、公共事業の地方移管を中央省庁再編の前提として国民に約束していたのであります。総理、このことは、前内閣の方針を継承するという小渕政権の方針にも反し、国民への約束をほごにするものであると考えますが、いかがでしょうか。
昨年八月、地方分権推進委員会は、第五次勧告へ向けていわゆる論点整理を各省庁に示し、公共事業の大胆な地方移管を打診しましたが、中央官庁と自民党族議員の猛反発のあげく、立ち消えとなってしまったとのことであります。総理、これでは、省益あって国益なし、族議員あって国民なしとの批判は免れないと考えます。総理は、この論点整理をどう認識し、公共事業の地方移管に対し、いかなるリーダーシップをとられてきたのか、御説明願います。
次に、地方自主財源の問題についてお伺いします。
地方分権推進計画の中では地方税財源の充実確保がうたわれておりましたが、本法案に盛り込まれたのはわずかに法定外目的税の新設と地方債の発行条件の緩和だけで、従来の補助金行政の継続を宣言したような中身になっています。本当の意味での対等・協力関係を目指すなら、大幅に地方の自主財源をふやすべきであります。そこで、本一括法案によって、現在六対四と言われる国と地方の税財源の割合が具体的に何%地方分に上乗せされるのか、自治大臣より御答弁願います。
さらに、平成十年度末現在の地方全体の借入金残高は百七十六兆円にも達し、地方財政は危機的な状態と言わざるを得ないのであります。地方財政を悪化させた主要な原因には、税収不足にもかかわらず公共投資を続けてきたことによる過度の地方債依存と、バブル期に土地開発公社などを利用して大量に購入した公有地の塩漬け問題などがあります。いずれも政府の景気対策と称する政策によって誘導されたものであり、その責任を政府はどう考えているのか。今後こうした状況をつくり出さないためにも、地方自治体が自己責任のもと、自主的に財源を確保し資金を調達する道を広げるべきであると考えますが、あわせて総理の所見を伺います。
地方分権は、シャウプ勧告といわゆる神戸勧告以来、長い歴史をたどってきたテーマであります。昭和二十二年、現在の地方自治法が制定されたとき、当時の植原内務大臣は、その提案理由の中で地方自治法を地方自治に関する憲法附属の法典と位置づけ、翌二十三年、さらに地方分権を進めるべく同法は改正され、その第二条に国と地方の果たすべき権限をそれぞれ個別に列挙したのであります。先進諸国では、およそ憲法にこのような権限の例示規定を設けているところですが、本法律案で政府がこの第二条の国の事務に係る例示規定を削除し抽象的な文言に後退させたことに私は強い懸念を示すものであります。
このことは、自治法制定から今回の分権委員会の勧告に至るまでの先人たちの努力を踏みにじり、地方分権の歴史を地方自治法制定以前の五十二年前に逆戻りさせるかの印象を与えるものです。また、我が国を民主国家として憲法にも自治法にも国と地方の権能を例示しない極めて異質な法治国家と化してしまうのではないかと危惧するものであります。
なぜこの重要な例示規定をいとも簡単に削除してしまうのか、我が国の地方分権の歴史認識も含め、総理の真摯なる答弁を求めます。
最後に、火だるまになって行革をやり抜くと言った橋本前総理の後に登板しながら、文字どおり火消し役となってしまったと言われないように、小渕総理の地方分権推進にかける今後の御決意をお伺いして、私の質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣小渕恵三君登壇、拍手〕
○国務大臣(小渕恵三君) 山下栄一議員にお答え申し上げます。
権限の移譲についてまずお尋ねがありましたが、本法案におきまして権限移譲を規定する法律は三十五本であり、そのうち国から地方に権限が移譲されるものは森林法等九法律十事項であります。また、機関委任事務制度の廃止に伴いまして、国の包括的な指揮監督がなくなることや、条例制定権の範囲が拡大すること等によりまして、地方の自主性、自立性が拡大され、地域の実情に応じた事務事業の企画立案等が可能となるものと考えております。
地方自治体の役割についてお尋ねがありましたが、地方自治法第一条の二に規定する自主的かつ総合的な実施とは、企画立案、調整、具体的執行を一貫して処理することを意味するものでありまして、特に役割を限定する趣旨ではありません。したがいまして、平成六年十二月の閣議決定の大綱方針や勧告、計画の考え方を変更するものではありません。
自治事務に関する是正の要求についてお尋ねがありましたが、地方公共団体自身による適正な事務処理が期待できないような例外的な場合には、国等がこれを放置することは適当でなく、必要な場合に限りまして関与することができることとしたものであります。その上で、国の是正の要求に対し地方公共団体が不服である場合には、新たに設けた係争処理手続の対象としたところであります。このような国の関与は、さきの政府の大綱方針に反するものでもありません。
国地方係争処理委員会を総理府に置く理由についてでありますが、国の関与を審査する事務は、各省庁に横断的にかかわるものであることから、他の行政機関の所掌に属しない事務を所掌事務とする総理府に置くこととしたものであります。
また、係争処理手続についてでありますが、審査請求の前置は、関与に係る行政部内の争いを、簡易迅速な手続により早期に解決することを旨としたものであります。他方、法定受託事務に係る代執行につきましては、地方公共団体の自主性に配慮し、国は司法判断を経なければ代執行ができないこととしたものであり、地方公共団体にとって一方的に不利との御指摘は当たらないと考えます。
公共事業の地方移管についてのお尋ねでありました。
公共事業の見直しにつきましては、橋本前内閣時代に成立いたしました中央省庁等改革基本法の趣旨を踏まえ、直轄事業の一層の基準の明確化、範囲の見直しによる縮減や統合補助金の創設等を進めることといたしております。
また、論点整理は、第五次勧告を検討するに際して地方分権推進委員会が当初示したたたき台であり、これを出発点として地域の社会資本整備の実情等さまざまな観点からの検討を加えた上で、最終的に第五次勧告が整理されたものと認識しております。
いずれにいたしましても、今後とも公共事業の適切な遂行に積極的に取り組む所存であります。
次に、地方財政の現状についてのお尋ねでありますが、現在、我が国経済の厳しい状況によりまして、地方財政は、巨額な財政不足が続き、借入金が急増するなど、極めて厳しい状況にあると認識いたしております。したがいまして、このような地方財政の立て直しのためにも、地方財政の運営に支障が生じないよう十分配慮しつつ、各般の経済対策を実施することにより、まずは景気を回復軌道に乗せることが必要であります。
また、地方分権の進展に応じまして、地方公共団体がより自主的、自立的な行財政運営を行えるようにするためには、地方公共団体の財政基盤を充実強化していくことが極めて重要であると考えております。景気が回復軌道に乗りました段階において、地方財政需要の諸課題につき、中長期的視点から幅広くしっかりとした検討を行わなければならないと考えております。
事務例示の廃止についてのお尋ねでありましたが、今回、地方自治法に新たに第一条の二を設け、国と地方の役割分担を明確化するとともに、地方公共団体の役割として、地域における行政を自主的かつ総合的に広く処理する旨を規定いたしたところであります。
地方公共団体が広範な事務処理権能を有することは、今日においては広く国民に理解されているところであり、事務の例示はかえって地方公共団体の事務を限定するかのような誤解を与えかねないことから、削除いたしたものであります。
最後に、地方分権を推進する決意についてお尋ねがありました。
地方分権は、二十一世紀にふさわしい我が国の基本的な行政システムを構築するものであります。私は、地方分権は今や実行の段階を迎えていると認識をしており、本法案を今国会においてぜひとも成立させていただき、地方分権を具体的な形で進めてまいりますとともに、今後とも、地方分権推進計画等を踏まえた国から地方への事務権限の移譲や地方税財源の充実確保などの推進に積極的に取り組んでまいりたいと考えております。
残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
〔国務大臣野田毅君登壇、拍手〕
○国務大臣(野田毅君) お答えいたします。
法定受託事務に係る処理基準についてのお尋ねでございます。
これは、事務を処理するに当たりよるべき基準ということでございまして、地方公共団体はそれに基づいて事務を処理することが法律上予定されているものであります。したがって、処理基準に反する事務処理について国が是正の指示をするということはあり得ます。ただし、当該関与が係争処理の対象となった場合には、裁判所は処理基準に拘束されることなく、国の関与の内容の適否を実質的に審査することとなるものであります。
また、処理基準では新たな事務の義務づけや関与などを定めることはできず、機関委任事務に認められていた通達とは大きく異なるものであります。
次に、機関委任事務を法定受託事務としたことによるメリットについてのお尋ねであります。
機関委任事務制度の廃止により、地方公共団体の条例制定権や地方議会の調査権の及ぶ範囲が拡大するとともに、包括的な指揮監督が廃止され、国の関与が抜本的に見直されることとなります。これにより、地方公共団体は自主的、主体的に行政を展開していくことが可能となるものであります。このことは、住民にとっても、地方公共団体における政策形成への参加を通じて、みずからの地域のあり方を考え、地域の実情に応じた政策を推進することを可能とするものであります。
最後に、地方税財源についてのお尋ねでございます。
地方分権の進展に応じて、地方公共団体がより自主的、自立的な行財政運営を行えるようにするためには、地方公共団体の財政基盤を充実強化していくことが極めて重要なことでございます。今回の地方分権一括法案におきましては、法定外普通税の許可制度を廃止し、国の同意を要する事前協議とすること、また法定外目的税を創設することなど、地方団体の課税自主権の拡充を図ることとしておるところでございます。
国と地方との税財源配分の見直しなど地方税財源の充実確保については、地方分権推進計画におきまして「国と地方公共団体との役割分担を踏まえつつ、中長期的に、国と地方の税源配分のあり方についても検討しながら、地方税の充実確保を図る。」とされておるところでもございまして、今後、経済の状況、将来の税制の抜本的改革の方向も見きわめ、できるだけ早期に取り組んでまいらなければならない課題であると考えております。(拍手)