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月刊「地球環境」掲載論文
月刊「地球環境」(1999年5月)掲載論文
緊急特集 ダイオキシン問題をどうする
政党初の対策特別措置法案を提出
今国会の成立をめざし、精力的な3党協議も
公明党 山下栄一
【議員立法の意義】
公明党は、1月27日、政党としてはじめて、有害化学物質のかなで『ダイオキシン類』に限っての、対策法である「ダイオキシン類対策特別措置法案」を国会に提出した。昨年九月十六日、法案化作業を始めて以来、この問題の専門家である摂南大学宮田秀明教授、横浜国立大学益永茂樹教授、環境総合研究所の青山貞一所長らと何度か意見交換を重ねた。又、昨年12月、党内手続きを経て、法案内容を記者発表して以来、市民諸団体、日本弁護士連合会、産廃業者、関係省庁など、幅広く国民各層からも意見を頂戴し、修正を加えたうえで、本年一月の国会提出となったものである。
2月17日、民主党独自法案国会提出後は、3回にわたり、公明、民主両党間で法案内容の整理を行った。現在、法案成立をめざし自民党を含め三党間で精力的に協議を重ねている。(3月31日現在)
2月1日、テレビ朝日の所沢周辺のダイオキシン汚染報道で国民の不安が広がって以来、小渕総理は「ダイオキシン問題は内閣の最重要課題」と言い出し、2月24日に関係閣僚会議を開催した。しかし、昭和30年代に公害問題が発生して以来、歴代内閣がとってきた泥縄式の無責任対応と全く同じと言ってよい、人権無視の対応を今回もやろうとしている。
地域住民の抗議行動、専門学者有志の調査データ公表、自治体への要望、国の安全宣言と基本指針策定。昭和30年代の水俣病の時も、今回の所沢問題も同じ経過をたどっている。
97年3月、全国で初めて所沢市が規制条例を制定した。以来、各地で次々と条例制定の動きが拡大した。しかし、国としての環境基準、排出施設の排出基準を含めた規制法がないことが地方行政の混乱をもたらし、条例そのものの実効性がない原因となっていた。公明党が昨年9月に法制化作業を始めたのも、生活地域の深刻な実態を受けてのものだった。しかし、小渕政権はこのご期に及んでなお、ガイドライン作りで切り抜けようとしている。3月30日発表した「対策推進基本指針」がそれである。
政府はこれまで高度汚染地域で本格的な調査をまったくやらなかった。テレビ朝日の野菜報道事件で初めて、人間の口に入る食品であるほうれん草、お茶の調査を行い、3月25日に結果を発表した。埼玉県の農家で栽培した農作物はほうれん草とお茶だけではない。人参も大根も白菜も作っている。にもかかわらず、問題となった二つの作物しか調査をしない。住民の側にたった腰の据わった行政と縁遠い体質は、昭和30年代以降、一貫して変わっていない。
私たちは今国会で何としても議員立法を成立させたいと思っている。ガイドラインでお茶を濁させてはならない。「国民の生命、生活を守ることが政治の使命である。」 ダイオキシン問題は何のために国会があるのかを国民から突きつけられた、一歩も退けない課題である。
【法案の主な内容】
法案の主な内容を以下に示す。
1.一日の耐容摂取量(TDI)を法文に明記
政令ではなく法律に数値を明記することがこの法律の画竜点睛との認識。環境基準排基準を制約する。
2.定義
ダイオキシン類にコプラナーPCBを入れる。
3.環境基準
大気・水質・土壌に関する基準を定める。その際、一日耐容摂取量を一として算出する。
4.排出基準
ダイオキシン類を排出する特定施設について、その種類及び構造に応じて、特定施設から排出されるガス・水に関する排出基準を定める。
5.総量規制基準
施設ごとの排出基準だけでは、大気の環境基準を守れない地域については、都道府県知事は、各事業場について総量削減計画を作成し、総量規制基準を定める。
6.廃棄物焼却炉に関する焼却灰及びばいじんの処理
ア)焼却灰及び、ばいじん中のダイオキシン濃度基準を定め、その基準内の処理義務を定める。
イ)最終処分場における維持管理基準を定める。
7.改善命令
都道府県知事は特定施設設置者に対し、排出基準又は総量規制基準を守らない恐れがある時、施設の改善又は使用の一時停止命令を出すことが出来る。
8.土壌に関する措置対象地域の指定
ア)対象地域の指定
知事は土壌に関する基準を満たさない地域を対策地域として指定する。
イ)知事は ア)の地域について、対策計画を定める。
9.国の計画
ア)国はダイオキシン類の量の削減計画を作成する。
イ)計画の中身
(1)事業分野別の削減目標量(2)事業者が講ずべき措置(3)発生原因となる廃棄物の減 量化を図るための国及び自治体が講ずべき措置など。
10.汚染状況に関する調査・測定義務と結果の公表
ア) 府県知事による調査測定
イ) 設置者による測定
11.罰則(懲役又は罰金刑)
ア) 排出者の規制制限違反に対し
イ) 行政命令違反について
12.住民参加規定
総量削減計画・土壌汚染対策計画への住民参加
【現下の諸問題】
1.人体の汚染
先日、3月10日、参議院予算委員会環境問題の集中審議で私は清掃労働者の方々のダイオキシン汚染問題を取り上げた。昨年、土壌汚染で問題となった大阪府豊能郡の環境美化センターで10年以上働いておられたお二人の方の血液中のダイオキシン濃度が高濃度であることが摂南大学の宮田秀明教授の調査で明らかになっている。血中濃度は通常一脂肪グラム当たり20〜30ピコグラム(1ピコは1兆分の1)が平均と言われているが、二度のガン手術を受けた一人の方は136ピコグラム、もう一人の皮膚が黒くなる病気に悩む方が180ピコグラム。特に皮膚が黒くなる病気は、産業化学物質による皮膚障害としての「塩素ざ瘡」という病気の可能性が高いと言われている。1968年わが国初の食品公害事件となった「カネミ油症事件」の時も、この「塩素ざ瘡」が、問題となった。カネミ油症事件はダイオキシン汚染が原因であったことが最近判明している。ダイオキシンで汚染された焼却灰の灰出し作業や焼却炉の清掃によって人体汚染の疑いのある清掃作業員の方々がたくさんいらっしゃるのではないか、極めて深刻な問題である。労働省が、焼却施設の労働環境でのダイオキシン類ばく露の実態を初めて調査したのは97年のことである。そして昨年の7月、「ごみ焼却施設におけるダイオキシン類対策について」という作業環境の改善措置などの全国通達を出したばかりである。作業される方々は、それ以前は全く無防備でダイオキシンを浴びていたわけである。労働省は全国の清掃労働者の数すら掌握していない。一般ゴミ焼却施設だけで8万人とも10万人とも言われている(民間委託業者の作業員数はまったく不明である)。作業期間が長年続いている方々の配置転換は今すぐ行わなければならないし、現業者だけでなく過去作業経験のある方々の健康調査を急がねばならない。高い汚染地域の健康調査を国は今まで全く行ってこなかった。労働省の調査(これは豊能郡のセンター作業員92名の血液調査)が、昨年10月、そして環境庁の調査(これは埼玉県30名と大阪能勢町32名の血液調査)が昨年10月〜12月にそれぞれ実施され、その調査結果がいずれも3月下旬に報告された。この血液調査の測定分析出来る機関は日本ではほとんどない。国の調査すら、海外へ分析を依頼しているのが実情で、測定分析の方法、評価に関する統一マニュアルもない状態である。
2.野菜の汚染
緑葉植物は光合成を行う。大量の空気を気吼から吸収して葉を作る。その空気がダイオキシンで汚染されていたらどうなるか。この問題提起が宮田秀明教授によってなされている。『松の葉を使った大気汚染の濃度についても調べました。松などは、枝が伸びて、葉も伸びるわけですけれども、全て空気からつくるという仮定をもとにしまして、結構な空気の寄与があります。それで今、申し上げたいのは、そういうことからいうと野菜の汚染濃度が高くなるのではないかということで、ちょっと効率はわかりませんけれども、葉っぱをつくっていく空気の量からしますと、魚よりはるかに高くなってしまうという気もしております。小さい焼却場でも、その発生濃度いかんによって野菜が影響を受けるということです。(中略)
まとめますと、人体影響評価というようなところは総合的に考えていく必要があるのではないか。それは、松の葉っぱということを考えますと、さらに野菜というものも非常に大きな要素になってきます。(環境庁「土壌中のダイオキシン類に関する検討会」第2回議事録の発言より)』
ダイオキシン類の人体摂取は食物からが約九割と言われる。食物連鎖により近海物の魚類がダイオキシン濃度が高いとされているが、野菜も気をつける必要があるということだ。
特にお茶について、農水省と厚生省が2月18日に出した安全宣言は全く説得力に欠ける。「水に極めて溶けにくいダイオキシンの性質から通常のお茶の摂取では、健康影響はないと考えている。」と説明。しかし、現在、健康食品ブームの中で、お茶の葉そのものを使った健康料理が普及している。埼玉県内の小学校では、月に数回、お茶の葉を使った料理としてまぜご飯、ふりかけ、抹茶入りパンなどがメニューとなっている。お茶の葉の汚染実態を国民の健康を守る観点から把握する必要がある。
3.廃棄物の最終処分場およびその周辺汚染問題
ダイオキシン類の発生源の八割は焼却によるということで、焼却施設の排出対策に関心が集まりがちだが、私は、最終処分場の実態がより深刻ではないかと考えている。廃棄物の焼却施設から排出されるダイオキシン類の2割が排ガスで、残りの8割が焼却灰や飛灰に含まれ、これは最終処分場に運ばれる。しかし現在、最終処分場におけるダイオキシンの汚染の実態はまったく把握されていない。
一般ごみ最終処分場で法令違反の処分場が1901施設中538カ所あったことが昨年3月、国の調査で判明している。その不適正処分場のダイオキシン汚染調査が、昨年6月より始まったが、まだ全部回収できていない。しかもその調査が不十分で水質調査しか指示しておらず、土壌汚染調査が抜けている。又、産業廃棄物最終処分場は、都道府県の許可数で1104カ所(96年度末現在)だが、その汚染実態は、まったく不明のままである。
ダイオキシン発生源として、ダイオキシンが混入している農薬の問題が指摘されている。1960〜1970年代に多量に使用されたCNP(クロルニトロフェン。除草剤の一種)などの農薬による水や土壌汚染はさらに深刻な問題である。
4.ダイオキシン類に関する測定分析の国際化について
ダイオキシン類の実測データの数値処理の問題は根本的な問題である。定量下限値(ダイオキシンの測定器械が測定できない下限の値のこと)以下の数値は実際に存在しても測定値が出てこない。これをN・Dで表すことになっているが、このN・Dをどういう値で判断するか。
日本はN・Dをゼロとして扱う。しかし、世界保健機構(WHO)は、定量下限値の二分の一を使用し、米国の環境保護庁(EPA)は定量下限値そのものを使用している。従って今まで厚生省や環境庁が発表してきた様々なデータはN・Dをゼロとして扱うので、全て低く出てしまうというカラクリがあるということである。少なくとも、日本で測定データを出すときは、WHOやEPAの方式ではこうなるというような方法をとらないと国際比較ができないことになる。
【終わりに】
2月下旬、新潟県で県の環境問題担当職員の研修会が行われた。ちょうど2月1日以来のテレビ朝日の野菜のダイオキシン報道により、日本中に不安が拡がっていたころである。2月24日に内閣が第一回の関係閣僚会議を開催し、総理大臣は「ダイオキシン問題は内閣の最重要課題として全力で取り組む」と言っている。まさにその最中、この新潟県主催の研修会で、厚生省より出向中の環境庁の環境保険部環境安全課の担当官僚が、驚くべき発言をしていたのである。
「ダイオキシンに関しては、世間は騒ぎすぎだ。WHOのTDIが1〜4だろうが、環境庁が5だろうが、厚生省が10だろうが、1兆分の1や5、10の話で、ああだこうだと議論する程度の問題ではない」と。
権力の側に立つ人間の傲慢な姿勢、庶民を蔑視し、本音と建前を使い分ける行政の悪弊を私達は断じて見過ごしてはならない。徹底して叩き壊さなければならない。我が党は、ダイオキシン問題を「庶民の手に政治を取り戻す戦い」の突破口にするために、今後も粘り強く全力で取り組んでいく覚悟である。(1999年5月)